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チェコ共和国の首都プラハ

チェコのメディア・リテラシーとデジタル・フォトグラフィ


中央ヨーロッパに位置するチェコ共和国は面積約7万9千km2(日本の約5分の1)人口1054万人。中央ヨーロッパ有数の工業地帯であり、モルダウ川流域に位置する古都プラハはユネスコの世界遺産に登録され世界的な観光地としても知られている。世界初の教科書・絵本「世界図絵」(1658)の著者コメニウス(Johannes Amos Comenius、1592~1670)はモラヴィア地方の出身である。

2012年6月、筆者はチェコ共和国の教育関係者を取材する機会を得た。特に、デジタル・フォトグラフィに関する実践や知見は日本の学校教育にはない高度な側面を有しており、将来的な展望を得るうえでも貴重と思われる。本レポートではその一部をご紹介したい。

職能教育としてのデジタル・フォトグラフィ
職業高等学校・職業訓練校・高等専門学校を一体で運営しているコプジヴニツェ工科学校(VOŠ, SOŠ a SOU Kopřivnice)は、首都プラハから車で約2時間スロバキアとの国境に近い街に位置する。周辺には古くから自動車・機械の製造工場が数多く存在しており、エンジニア養成の教育機関として1948年に創立された学校である。

情報関係の授業を担当するスンバル(Jiří Sumbal)先生は、EUの教育プロジェクト資金を得て40項目約2700ページに及ぶ電子教科書コンテンツ(PDF)を作成し、2012年プロジェクトのトップ10に選ばれた。コンテンツにはICT基礎アプリケーション操作のほか、マシン制御、3Dモデリング、市場経済、語学などが含まれている。

Jiří Sumbal 先生(校長代理)  PDFで作成されたデジタル写真編集の教科書コンテンツ
左: Jiří Sumbal 先生(校長代理)
右: PDFで作成されたデジタル写真編集の教科書コンテンツ

訪問時に見せてもらったのは第4学年に週2回設定されているITクラスで、この日はデジタル・フォトグラフィがテーマ。具体的にはグループでトピック別(コンピュータ・自動車・鉄道など)の写真セットを用いて文書作成する。
ただ、作業の様子をよく見ると、単純に画像処理ソフトで写真加工してワープロに貼り付けている訳ではない。画像処理アプリケーション上で写真ファイルに含まれるメタデータ(撮影情報等)にキーワードや解説を付加編集した後で、レイアウト・テンプレートを用いてPDF文書やウェブページに一括出力している。

作業中の学生  Zoner Photo Studioのレイアウト・テンプレート
左: 作業中の学生、写真のメタデータにはシャッタースピードや絞り値以外にGPS情報やキーワード、
     解説なども含め
ることが出来る。
右: Zoner Photo Studioのレイアウト・テンプレートでは、写真と一緒に表示させるメタデータの種類を
     任意に選択できる。


スンバル先生によれば、これは膨大な量の写真管理や出力を効率よく行うためのカリキュラムで、やがて職場でこのような使い方が一般的になる事を見越して、単純なグラフィックス処理にとどまらず、ファイル管理やメタデータ編集までを包括的に扱うことにしたという。キーワードや解説が付いていない写真はやがて検索が困難になり、デジタルの混沌に埋没してしまう。「写真加工よりも写真管理」たしかに、これまで見落とされていた重要な視点といえる。

中学生から高度な画像編集
6~15歳の義務教育学校コプジヴニツェ初等・中等学校(Základní škola Kopřivnice)は、市街住宅地に位置する外国語学校(通常カリキュラムよりも外国語教科への時間割り当てが多い学校を総称)である。6~15歳まで在籍児童生徒は370名。ブレシュ(Milan Bureš)校長に話をうかがった。 この地域の住民は約2万人、地域内には4つの初等中等学校とキリスト教学校があるが、アメリカ人・イギリス人(2名在籍)による外国語学校は中でも特別な存在だ。この学校は外国語教育と同様情報教育にも力を入れている。情報教育は5年生から開始し、6年生からは情報教育と数カ国語から1科目を選択するシステムだという。

Milan Bureš校長  校庭で遊ぶ子どもたち
左: Milan Bureš校長・写真芸術にも造詣が深く校長室には作品が数点飾られていた。
右: 校庭で遊ぶ子どもたち

こちらの学校では8年生を対象とした写真撮影・加工の授業を見せてもらう事ができた。ヒストグラフ調整や特定色領域選択の機能を利用して、ロンドンのダブルデッカー画像の配色を変えてみるといった練習だが、比較的複雑な操作もトラブルなく自然にこなすほど生徒達の能力は高い。また、この学校では情報教育に用いる課題・教材配信には授業教材システム(Moodle)を用いており、学校ホームページから直接ログインできるようになっている。

8年生の写真撮影・加工の授業の様子・赤いダブルデッカーが紫色に  Moodleの教材一覧
左: 8年生の写真撮影・加工の授業の様子・赤いダブルデッカーが紫色に
右: Moodleの教材一覧

大学でシニア向けのデジタル・フォトグラフィ講座
プラハ市街に位置するプラハ経済大学(University of Economics in Prague, VSE)の情報学・統計学部には、デジタル・フォトグラフィ講座が開設されている。ユニークなのは、一般学生向け2レベルとシニア向け3レベルのコースがあることだ。講座では一般的な撮影指導・講評のほか、カラーマネジメント・カラーバランス・トリミングなどPC上でのイメージプロセスについて一通りの操作を扱う。

Stanislav Horný助教  2011年受講者の作品
左: Stanislav Horný助教
右: 2011年受講者の作品・モルダウ川にかかるカレル橋で撮影されたもの。プラハらしい一枚だ。

担当するホルニー(Stanislav Horný)先生によれば、このコースはたいへん人気があり、毎回定員の10倍以上の応募があるのだそうだ。受講生作品のレベルはきわめて高く、芸術コンテスト(Winston Econ Art Competition)に毎回多数がノミネートされている。
シニア向けコースのクラスにお邪魔して受講者に動機をうかがったところ、孫の写真を上手に撮ろうとか、デジタルカメラの扱いを覚えたいとか、と実に様々。
ちなみに、日本でシニア向け写真講座を受講する人といえば、プロアマチュア・プロ向けの高級機材でがっちり固め、休日ごと景勝地の撮影ツアーに出かけるような、かなり気合いの入った趣味人の印象を受けるのだが、プラハの皆さんがお持ちのカメラは比較的安価なコンパクトタイプが多かった。
これは実に興味深いことで、日常的に気軽に写真を楽しむ人々が、本格的な撮影指導や写真加工・写真管理にトライし始めていることになる。デジタル・フォトを扱うユーザー層が確実に拡大していることを感じさせる。

講義中の一コマ  シニア講座の皆さん
左: 講義中の一コマ
右: シニア講座の皆さん

リサーチ・プロジェクトの評価発表会
プラハ3区市街地中心部にあるルパーチョヴァ初等中等学校(Základní škola Lupáčova, Praha 3)は、在籍児童生徒約650名・教職員数40名。外国語教育と情報教育の先進的取組みで知られている。電子黒板(IWB: Interactive White Board)をはじめとして、各種機器メーカーとの共同研究を行っており、2001年には当時マイクロソフト社長のビル・ゲイツも来校視察したという。
訪問当日はちょうど学年末の終業日にあたり、ハウスナー(Milan Hausner)校長から9年生(15歳)のリサーチ・プロジェクト評価発表会に招待されたのだった。
各自が決めたプロジェクトテーマについて、主にインターネットで収集した情報をとりまとめ、一人あたり15分のリサーチ結果プレゼンテーションを行う。発表後質疑応答を行う学会発表形式だ。9年生にとってはちょうど卒論発表会のような位置づけになるわけで、教師陣の前で発表する生徒は皆緊張していた。
各自のテーマは自由に設定して良いので、地球温暖化・犬と人類との関わり・統合失調症・ケルト語の歴史と話者分布などと、実に多様。外国語学校らしく、最初の概要部分は全て英語で説明される。プレゼンテーションには主にパワーポイントが用いられるが、必要に応じてYouTube動画を引用するなど細かな工夫が見られる。
大人びた15歳の姿以上に驚かされるのは発表の質の高さだ。課題背景から結果結論に至る間に飛躍がなく、良く調べ整理されている。発表時間から逆算したボリュームも適切。
また、最初に要約と項目を示すこと、最後にまとめを設けること、参考文献の出典を示すこと、といった基本的な約束事がしっかり守られているので、(残りの大半が筆者には理解困難なチェコ語でも)発表構造が理解しやすい。
さらに、初心者がやりがちな余計な画面効果やアニメーションが一切排除されて、発表目的に合わせたシンプルな構成になっていることを見ると、すでに日常的に使いこなされていることが想像できる。

ルパーチョヴァ初等中等学校  電子黒板(IWB)を使って統合失調症についてのプレゼン発表
左: プラハ3区ルパーチョヴァ初等中等学校(Základní škola Lupáčova)・市街一等地にある古い学校の
     ため外遊び用のグラウンドが確保出来ないのが悩みとか
右: 電子黒板(IWB)を使って統合失調症についてのプレゼン発表内容はかなり本格的

発表後の質疑応答  優秀プレゼンの表彰
左: 発表後の質疑応答・教師陣から容赦ないつっこみが入る
右: 優秀プレゼンの表彰

電子黒板利用の先進校
昼食時間にハウスナー(Milan Hausner)校長から話をうかがった。
この学校に授業活用研究のため電子黒板(IWB)が導入されたのは1999年のことで、以来ICT関連機材の導入は学校の独自予算と企業寄付で賄ってきた(プラハ1区やプラハ3区の残りの学校は自治体予算だそうだ)。校長自ら欧州委員会・企業共同研究のプロジェクト応募企画書を書き、プレゼン行うことで、積極的に研究資金の獲得を行っている。
全学級にはプロジェクター(一部は電子黒板)の設置を終えており、教員が必要な時にすぐ使える状態にしてある。すでに多くの学校に電子黒板が導入されているが、導入初期の物珍しさ・派手さに依存しない、効果的利活用方法の検討は欧州でもまだこれからだ。校内の活用勉強会を定期的に開催しても、苦手な先生にとってはやはり扱いが難しいらしい。また、学校種による違いも。「電子黒板は初等中等学校で比較的よく使われているのだが、高校では配備があっても使われていない。勉強が忙しすぎるので、新しい機材を活かす余裕がない」と校長。
ちなみに、学校へのICT導入円滑化のポイントは教職員の嫉妬だとか。可動式の共有機材にすると移動が面倒なので結局使われないが、特定教室固定で導入すれば他クラスでも使いたがるという。なるほど、彼の国の現状を考えれば、なかなか頷ける話だ。

黒板とプロジェクター・スクリーン  クラシカルな校舎内には数々の学校表彰状が誇らしげに飾ってある
左: 黒板とプロジェクター・スクリーンを並べて配置した一般教室(電子黒板ではない)・提示者による
     影が出にくい超単焦点型プロジェクターが用いられている。欧州では壁固定スクリーン+天井吊り
     プロジェクターで教卓の教師用PCから出力する形の配備が多い。
右: クラシカルな校舎内には数々の学校表彰状が誇らしげに飾ってある

ITは子どもに自由に使わせた方が良い
昨今の児童生徒のコンピュータ利用については保護者の期待も高い。特に、新年度になると、学校方針に対する要望も多く寄せられる。ちなみに、この学校ではGlogster.EDUというインタラクティブなページを作成するツールを主に使って児童生徒の活動に役立てているのだが、保護者はむしろ教科書を全て覚え込ませるようなコンテンツを好む傾向があるという。
先に紹介した9年生のリサーチ・プロジェクトでは、途中過程での教授方法について議論があった。教師側が積極的にコントロールして進める伝統的教授方法と、子ども側に多くを委ねる方法の2通りである。
校長は子どものICT利用に関しては後者の意見で、それぞれのスタイルでPC環境を使い込んでいく許容を積極的に求めた方が効果的と見ている。「授業中は、子どもたちの手元にあるPC(やタブレット)をコントロールしきれないし、しばしば別の事で遊んでいる子もいるが、結局、各人に目的と自由を与えてツール利用させた方が成果も高い。」リサーチ・プロジェクト表彰全7篇中、校長が後者の方法で教えたクラスからダントツで4篇ノミネートされた事がその証拠だという。子どもたちは日常生活でPCや携帯電話を1日平均3~4時間は使っているのだから、学習の道具として使うのも自然な流れだ。
ちなみに、最近流行のタブレットについて低学年からの導入について尋ねてみたところ、校長の意見は否定的であった。「すべて平面で表現されてしまうところに違和感を覚える。」伝統的なメディア・ツールからデジタルへの移行は、やはり難しい問題であるようだ。

リサーチ・プロジェクト発表会で順番待ちの子どもたち  ハウスナー(Milan Hausner)校長
左: リサーチ・プロジェクト発表会で順番待ちの子どもたち。
右: ハウスナー(Milan Hausner)校長・長年にわたりチェコの情報教育を牽引してきた。

オンラインツールの活用
先に紹介した創作ツールGlogster.EDUと合わせ、この学校ではオンラインツールの活用にも力を入れている。www.yacapaca.comは英国発の無料のオンラインLMSシステム(実際にはCAIオーサリング・ツールと呼んだ方が正確かもしれない)で、15000を超えるドリルコンテンツが収容されており、世界的に利用されている。ドリル構成は複数選択肢の択一問題を10個作って1単位とするシンプルな構成で、解答正誤に応じてメッセージやフォロアップがなされる。学校ではこの製品をチェコ語に翻訳・ローカライズして活用している。
もうひとつは、学校ウェブサイトを管理する学校日記(daily news)のシステムだ。 先生方は記事掲載機能を告知板のように便利に使っている。学校から日常生活や学習成果・表彰などを公開することには、学校に対する無関心や理不尽な批判を減らす積極的な意味があるという 。(このあたりは筆者の学校広報理論の主張と重なる部分でもある。学校広報の情報はこちら http://www.i-learn.jp/spr/
ただし、学校の事を知らせすぎると今度は安心して学校に来なくなってしまうので、インターネットと対面コミュニケーションとのバランスを考える事が重要だ、とハウスナー校長は教えてくれた。

放課後有料講座と学校予算
様々な企業との共同研究に熱心なハウスナー校長だが、やはり学校予算の獲得は頭痛の種。ただし、チェコには他国にはない面白い習慣があり、これが学校にプラスの効果を与えているという。
チェコの学校では正課が比較的早い時間に終わり、放課後の長い時間を各自好きな有料講座に充てることができる。有料講座には、通常の学校カリキュラムでは扱わない特別英会話やスポーツ、芸術に関わるものがある。
ルパーチョヴァー初等中等学校では午後1~5時に有料講座を複数設けており、その料金は学校外の一般的講座の半額2000コルナ(≒8400円)に設定している。有料講座の年間予算は75万コルナというから、単純に計算すれば375名、全校児童生徒の約58%が利用している計算になる。ここから得た利益が教員給与や学校予算に組み込まれる仕組みになっているそうだ。
学校では、他に教室や講堂などの時間貸しもしており、ここからもまとまった収入を得ているという。

ブルノ市の学校で運営されている有料の水泳クラブ   ルパコーヴァ初等中等学校の廊下に飾られたドローイング
左: ブルノ市の学校で運営されている有料の水泳クラブ
右: ルパーチョヴァ初等中等学校の廊下に飾られたドローイング

生活に定着したデジタル・フォトとノンプロのためのアプリケーション
ここ10年のデジタルカメラの普及は、同時にデジタル・フォトグラフィを扱う層の急速な拡大につながっている。我々のような特別な技能を持たないノン・プロフェッショナルが、日常的に膨大なカメラ画像データをネットでやりとりするようになった訳だ。
では、膨大な画像データを扱うアプリケーションの方はどうかと言えば、プロ仕様として唯一有名・独占的・超高価な某イメージ・プロセシング・アプリケーションを除いて、アマチュアからビギナーまでを対象としたアプリケーションの市場では決定的優位な製品が見当たらない。
ZONERソフトウェア社(http://www.zoner.jp)のZoner Photo Studioはプロ・アマチュアからビギナーをターゲットにした製品のひとつであり、日本での知名度は高くないが、欧州、特にチェコ・スロバキア両国ではトップシェアを誇っているという。彼らはデジタル・フォトグラフィをどのようにとらえ、何を実現しようとしているのだろうか。

ブルノ(Brno)のZONER本社  Zoner Photo Studioの教室
左: ブルノ(Brno)のZONER本社・クラシックな建物を改装して社屋に使っている
右: 本社があるZoner Photo Studioの教室

ヤロミール・クレイチー(Jaromír Krejčí)氏  Zoner Photo Studio 13 PRO 学校版のメイン画面
左: ヤロミール・クレイチー(Jaromír Krejčí)氏・今回のチェコ調査にも同行いただいた
右: 「学校プロジェクト」で寄贈しているZoner Photo Studio 13 PRO 学校版のメイン画面

チェコ第2の都市ブルノ(Brno)に本社を置くZONERソフトウェア社にて、プロダクト・マネージャーの ヤロミール・クレイチー(Jaromír Krejčí)氏に担当デジタル・フォトグラフィの展望について伺った。
今やグラフィックスの仕事の大半はプロのものではない。学校・美術館官公庁・企業ビジネスなど様々な領域の実務に欠かせないものになりつつある。
ただし、デジタル・フォトグラフィの歴史はまだまだ浅く、現状のユーザー環境にはまだ様々な課題がある。例えば、知識スキルの不足、試行錯誤の繰り返しで効率的操作が難しいといった問題の他に、膨大な蓄積情報がカオスになってしまったり、他者との情報共有がスマートにできなかったりする。

Zoner Photo Studioの設計思想は、デジタル・フォトグラフィにまつわる従来の様々な誤解を解くことを念頭に置いている。つまり、フォトプロセスは単なる写真加工ではないし、効果的な写真加工を行うには知識と創造性が必要だ。膨大な写真情報を効率よく管理するにはメタデータの活用が欠かせないし、ソーシャルメディアでシェアしようと思えば、撮影者著作権扱いにも気を配る必要がある。 アプリケーションでは、写真データの取り込みからデータ管理・修正・編集・共有までの一連の流れがスムーズに行えるような工夫がなされている。

一つ例を挙げよう。工科学校のエピソードでも取り上げたが、Zoner Photo Studioのデータ管理部分の機能の豊富さは特筆すべきところだ。写真データの扱いが面倒なのは、通常のテキスト検索でファイルを探すことが出来ない事だ。撮影枚数が限られるならフォルダ名などで写真を整理区別出来るが、膨大なデータから探そうとすると一苦労になってしまう。 そこで役立つのが画像に埋め込まれた情報だ。通常、デジタルカメラのデータには撮影情報等が埋め込まれているが、普段あまり目にすることはない。Zoner Photo Studioを使って画像情報のラベルやレートなどを付加しておけば、検索操作はとても簡単になるし、画像情報として登録されたアイテムを、テンプレートを通じて効率よく書き出すこともできる。写真データの管理は、やがてこのような形に変化してゆくだろう。

Zoner Photo Studioを用いてラベルやレートなどを工夫すればすっきり整理できる Zoner Photo Studioを用いてラベルやレートなどを工夫すればすっきり整理できる
左・右: 撮影した写真データに付属する情報の例。Zoner Photo Studioを用いてラベルやレートなどを工夫すればすっきり整理できる。

デジタル・フォトグラフィはメディア・リテラシーの一部
このコラムで取り上げたチェコ国内の学校事例の大半は、EU・チェコ教育省21世紀プログラムのひとつFoto skola (フォト・スクール) に参加している。プログラムは学校実践に伴って3年間まとまった補助金が拠出されるもので、ハードウェア・ソフトウェアの整備や実践活動の経費に充てることができるが、学校単位で企画書・報告書を提出しなければならない。

今回これらの学校事例に触れたうえで、あらためて考えさせられた事がひとつある。
仮に日本の学校でデジタル・フォトグラフィを扱うなら、その教科枠組みとして適当なのは、情報教育なのか、美術なのか、それとも別の何かなのか? その内容は、単なる写真撮影にとどまらず、ファイル管理・画像加工・情報共有までを広く含んだ複合的な活動で、しかも、カメラ機材に加えコンピュータやネットワークの環境が必要だ。
先に紹介したように、ノン・プロフェッショナルが大量のデジタル画像を日常的に扱う事を前提にするなら、美術や情報教育の技巧や操作スキルの育成というよりは、むしろ、言語活動の拡張、もしくはメディア・リテラシーの一部として考えた方がより自然だ。デジタルカメラ(機能)はすでに身近な普段使いの文房具になっているのだから。

ZONERソフトウェア社のクレイチー氏によると、Zoner Photo Studioはチェコ国内初等中等学校の約 2分の1に導入されており、教師の授業教材準備やウェブ記事作成に積極的に活用されているという。
特に、デジタル・フォトグラフィ領域はドキュメント(文書)との親和性が重要と考えられており、学校生活でのいきいきとした日常(living school)を手軽に伝える手段としてすでに定着している。
デジタル・フォトグラフィを学校教育で積極的に扱う理由は主に2つ。ICTの利活用能力(コンピテンス)を構成する重要な要素であり、かつ、(個人の趣味ではなく)将来的な職業のための教育にもつながるからだ。発達段階別の学習目標も用意され、チェコ語・英語版に限られるもののe-learningの教材も用意されている。学習目標はたとえば次のようなものだ。

・基礎知識(初等教育)
  基本的操作の学習と画像編集の重要性理解・撮影実践
・応用知識(中等教育)
  質的に優れた画像編集・最適な方法選択
・ドキュメント化の演習(初等・中等)
  デジタル・アーカイブを維持管理するための原則
  プロの利用方法
・創造的表現の機会(全レベル)
  写真合成とオリジナリティ・芸術的技巧と効果

さらに、デジタル・フォトグラフィを一般社会人向けのICTスキルセットの中に捉えようとする動きもある。欧州では1995年以降コンピュータ・ドライビング・ライセンス(ECDL・ICDL)と呼ばれるコンピュータ・リテラシー検定プログラムが開発され、世界148カ国42言語で提供されているが、従来、ワープロ・表計算・データベース・プレゼンテーションといったオフィスアプリケーション中心であったものに加えて、デジタル・フォトグラフィに関する項目が追加される予定であるという。
このような動向を勘案すると、従来テキスト中心に構成されてきたICTスキルは、より広範囲な表現を統合する能力として再定義されつつあることが分かる。学校教育の領域でも同様に、従来の教科枠に無理矢理収める発想ではなく、時代の要請に合わせた教育カリキュラムがいずれ必要とされるのだろう。

国際大学 GLOCOM
豊福晋平
准教授・主幹研究員

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チェコ共和国の教育関係取材

 

Zoner Photo Studio 13のチュートリアル

 

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